緊急対策でイノシシ捕獲急増 「出口」なく処理停滞[宮城県]

東京電力福島第1原子力発電所の事故の影響で野生のイノシシ肉の出荷が制限されている宮城県で、捕獲したイノシシの処理に地元の狩猟者が頭を悩ませている。食肉として活用ができず「出口」がふさがれる一方、農水省の緊急捕獲対策による手厚い支援が奏功し、2013年度の捕獲頭数が前年度の1.4倍の3500頭にふくれ上がるなど処理負担が増しているためだ。現場からは、埋却など負担が大きい処理方法を改善するため、解体・処理施設の整備などに支援を訴える声が上がる。

 「イノシシが入ったぞ」。角田市小田地区の里山で、箱わなにかかった体長約90センチ、推定2歳の雌のイノシシを見つけた、県猟友会伊具支部長の庄司登さん(68)が叫んだ。庄司さんが近づくと、イノシシは威嚇するように歯をカチカチと鳴らし、箱わなの入り口に向かって何度も突進して暴れた。「こんなイノシシが畑をわが物顔で荒らしているのでは、農家は怖くて農作業もできないだろう」とつぶやく。

 県内の12年度の野生鳥獣による農作物被害は前年度比2900万円増の8900万円。そのうち、イノシシの被害は1200万円増の3900万円と4割を占める。庄司さんは「農家が悔しそうな顔をするのを見ていたら、何としても頑張らなければ」と使命感から捕獲を続ける。ただ、「捕獲しても、肝心の処理ができなくなってしまったら・・・」と表情が曇る。

 農水省は全国で増え続ける野生鳥獣による農作物被害を食い止めようと、13年度から鳥獣被害防止緊急捕獲等対策を始めた。イノシシの場合、捕獲の経費として1頭当たり最大8000円を支援。同市の場合、市などの補助と合わせて1頭当たり1万円が奨励金として狩猟者に支給される。

 県猟友会伊具支部では、原発事故による出荷制限で狩猟者の意欲が低下していたが、13年度、管内の同市と丸森町で前年度の2倍の2100頭余りを捕獲。緊急対策が奏功した形だ。

・原発事故で加工場“閉鎖”

 ただ、捕獲数が増える一方、課題として浮上したのがイノシシの処理だ。丸森町に解体・処理・加工場があるが、原発事故で食肉として活用する道が閉ざされて以降、事実上閉鎖されている。

 庄司さんらは現在、止め刺しをしたイノシシの多くを、山中や農家の敷地に埋却しているが「これだけ頭数が増えると、大きな穴を掘ったり、現場で解体したりするのは大変な重労働だ」。猟友会会員は7割が60歳以上。「このままでは10年以内に大半の狩猟者がやめてしまうのではないか」と危機感を募らせる。

 農水省は、野生獣の解体・処理施設などの建設に対し最大半額を補助する「鳥獣被害防止総合対策交付金」を14年度は95億円を計上した。しかし、こうした事業の活用も「(原発事故で)食肉などに活用する費用対効果が説明しにくく、建設は極めて厳しい」(県農産園芸環境課)。仮に市町村が単独で施設を作るにしても「食肉への活用無しでその後の維持管理をすることを考えると、財政面で非常に難しい」(角田市農政課)と、行政も二の足を踏む。

 庄司さんは「農業被害の撲滅のためにも、現場の実態に添った対応が必要だ。このままでは人間がイノシシに負けてしまう」と訴える。